八幡平温泉郷との出会いからの起業ーゲストハウス開業からの移住ー【連載 第1回(全3回)】



八幡平温泉郷に、若くして素泊まりの宿を立ち上げた人がいます。今回お話を伺ったのは「温泉ゲストハウス やすもり」を経営している永本宏明さん。

八幡平温泉郷の中にたたずむ宿を訪れると、ロビーへと案内してくれました。話し始めると、一つ一つの言葉を考えて丁寧に答えてくれる姿が印象的です。盛岡に生まれ、八幡平市で開業した永本さんのエピソードを全3回に分けてご紹介します。

自由な環境への憧れ


永本さんは岩手県盛岡市出身。東京で約13年、海外で約2年半暮らし、様々な仕事を通じて経験を積み重ねたそうです。その根底には、自分の事業を展開することへの憧れがありました。

「中学生くらいから、携帯電話とノートパソコンを持ち世界を飛び回りたいという漠然とした思いを抱いていました。1つの場所に縛られず働く自由な環境への憧れがありましたね。今でいうノマドワークまたはテレワークがあてはまるかと。子どものころは単なる夢でしたが、25歳になった頃、これからの人生について真剣に考え始めました」

実は人と話すことが苦手だったという永本さん。人生について真剣に考え始めた頃”ここで殻を破らないと何も始まらない”という意識が高まり、積極的に人と接する状況を作っていきます。

「交流会やイベントなど、これまで行かなかった人が集まる場所に意識的に参加しました。様々な人と交流する中で、相性の良し悪しや好き嫌いなど色々感じたことを覚えています。失敗もたくさんしましたし、何気無い一言の重みなどを痛切に感じることも。人間観察を行い『直感力』を磨きました。『直感力』は今でも自分が大切にしている判断要素の一つです。起業するときにも活かされています」

しかし、20代のうちは、起業の具体的なアイディアや明確な結論はでませんでした。“このままでいいのだろうか?”、”自分には何が向いているのだろう”と自問を繰り返す日々・・・。焦りを感じたり諦めたりを繰り返す中で、突然海外での生活を経験します。この海外での生活が一つの転機になったと言います。

海外の自由な生き方に触れる

「東南アジアに少しの期間住んでいた時に見た、露天商の姿は印象的でした。私は調理師免許を持っていますが、例えば日本で飲食を提供しようとすると、免許取得や届け出・何らかの規制など多々あり、始めるまで色々めんどくさい。でも、タイの露天商は、自分でリヤカーを引っ張ってきて、持っている縄張りの中で自由に楽しそうに商売をしている。”なんで働くことがこんなに自由で楽しそうなんだろう!”と衝撃を受けました。その時、いくら忙しくて自分の自由時間がなくても、自由な働き方が良いと強く思いました」

海外から戻ったのは34歳の時”そろそろ自分で何かをやらないと、この先、年齢を重ねるにつれ体力や気力が無くなり何もできなくなる”と思っていた頃、八幡平温泉郷の存在を知ります。

八幡平温泉郷との出会い

温泉ゲストハウスやすもりのお風呂

「連休などで実家に帰省している時に、八幡平温泉郷近くの松川温泉には度々来ていました。でも八幡平温泉郷の存在は、その時はまだ知りませんでした。

松川温泉は定期的に利用していたので、温泉の素晴らしさは知っています。全国的に有名な温泉地はたくさんありますが、静かな環境でゆっくりじっくり浸かることができて、身体の芯から温まる。加えてポカポカ持続性にも優れた温泉に魅力を感じました」

もともと起業する場所に関しては、強いこだわりはなかった永本さんですが、今まで磨いてきた『直感力』も働き、ここの『温泉の素晴らしさ』を1人でも多くの方に体感してほしい!と強く思ったそうです。「これなら夢中になり大変でもくじけず頑張れる。何年かかろうとも絶対共感してもらえるお客さんがいるはず!」と確信しました。

周囲からの反対


オリジナルのペンション開業を考えて動き出しましたが、周囲からは猛反対をされます。

「起業・独立に関して、家族からの反対はすごかったです。しかし覚悟や予想はしていました。ただ、反対することは当たり前のことだと思います。逆に、自分が親の立場であっても、今までその業種に携わった経験も資金もない人が”ペンションをやろうと思っている”と相談に来たら、必ず”やめといたほうがいい!”という話から始めますね。

なぜかというと、”やめといたほうがいい!”と言われて”うん、そうだね”と簡単に納得してしまう人は、厳しいですがその時点での独立は難しいと考えているからです。素直さは大事ですが、独立というのは自分自身との戦い。まだ何も始めてもいない段階で、他人からの良し悪しの意見に振り回されて芯がないようなら、初めからやらないほうがいい。仮に立地やデータ等の好条件が全て揃っていても様々な理由で上手くいかないことはあります。まずはブレない覚悟がどのくらいあるかが大事だと思っています」

自営業の家庭に育ち、将来はどんな形でも独立や起業をして、自由と責任を楽しみたいと考えていた永本さん。これまで経験してきた職種とは全く異なり初めての業界でしたが、開業の夢を実現させるために本格的な活動を開始します。

紆余曲折のすえ準備に4ヵ月を費やし、2017年12月1日に「温泉ゲストハウス やすもり」を開業しました。

次回は「温泉ゲストハウス やすもり」を開業してからのエピソードをご紹介します。
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