「自然に囲まれた場所で自分のサロンを開きたい」ー新しい夢から始まった移住ー


八幡平市での生活について「満足度が高い」とお話される斉藤恵さん。八幡平市で生まれ育ち、都内から八幡平市へ戻ってきたUターンの移住者です。しかし、斉藤さんが住む場所に選んだのは、慣れている西根地区ではなく、自然豊かな温泉郷エリア。手に職をつけ、自宅兼サロン「うさぎとことり」を運営しながら八幡平市での暮らしを満喫する斉藤さんの移住物語をご紹介します。


人生の転機と新しい夢


八幡平市の西根出身の斉藤さん。大学卒業後、憧れていた東京に出て旦那さんと出会い、そのまま専業主婦の道へと進みます。25年間東京で専業主婦として家庭を守っていた斉藤さんでしたが、2012年に旦那さんが肺がんで亡くなり、49歳で未亡人となりました。

斉藤さんは、手に職をつけるためにリフレクソロジーの勉強を始めます。通常であれば2年かかる資格を3ヶ月でとるなど、精力的に学びを深めました。老人介護施設や終末期医療の施設などで3年間働いた後、都内に自宅サロンを開業します。

「振り返ると、東京にいた時の方が孤独だったような気がします。務めている時は仕事に行って流れ作業のようにお客さまの足をマッサージして、施設の人に挨拶して帰ってきて、スーパーのレジの人に『今日は朝暑かったですね』とか挨拶するくらいしか人との関わりがなかったんです」

希薄な人間関係のなか「本当の癒やしとは何か?」を考えるようになったそうです。そして一つの結論に至ります。

「人を癒やす仕事をするうちに”人は自然に癒やされる”と思い至るようになりました」

新しい夢も生まれました。

―自然に囲まれた場所で自分のサロンを開きたい―

この夢が、斉藤さんの移住の出発点となります。

ふるさと回帰支援センターに通いながら情報収集

移住を考え始めた当初は、生まれ故郷である岩手県にこだわっていなかったそうです。移住先や移住に関する情報収集のために活用したのは、ふるさと回帰支援センターでした。

「ふるさと回帰支援センターには、1年くらい通いました。セミナーなどにも参加していろいろな方とお話する中で、地元の八幡平の方とも出会ったんです。『八幡平なんですか?私、西根なんですよ!』と盛り上がって。段々と、ふるさとに帰りたいという思いが強くなり、移住先を岩手に決めました」

しかし、移住を決めた当初は、周囲から反対があったそうです。

「『東京の方がいいんじゃない?』という方もいれば、『なんであんな何もないところに』と驚く方もいましたね・・・・・・。でも、2人の息子が応援してくれたこともあって、移住計画を推し進められました」

苦労した不動産売買と運命の出会い

苦労したエピソードを振り返りながらも笑顔を絶やさない斉藤さん

移住のために東京のマンションを売るための活動も続けていたとのこと。しかし、一筋縄ではいきません。リフォームしてから売るまでの間は大変だったと言います。

「下見に来て気にいってくれた方が現れてもローンで手こずったり、いろいろありました。でも、仲介の不動産業者さんが便宜を図ってくれたりして、1つずつ問題を解決しながら進めました」

どうして今の場所に決めたのかと伺うと、「私、この場所に呼ばれたと思います」と話されます。

当初は葛巻への移住も考えていたとのこと。しかしある時、盛岡で不動産屋に張り出されていた土地の紙を見て、そのまま不動産に飛び込んだそうです。

「不動産は出会いだから」と斉藤さんは話します。そのまま案内された土地を見て、買うことを決意しました。

「私は八幡平市の出身ですが、子どもの頃に住んでいたのは山の下の街である西根だったので、八幡平という山に近いエリアに憧れがあったんです。子どもの頃、レジャーで訪れていい場所だということを知っていたのも決め手になったかもしれません」

 オリジナルのミニミニブーケ。
自宅の周辺には、鈴蘭水仙、ムスカリ、すみれ、ハルジオンなどが四季の花が咲き乱れ目を楽しませる

八幡平市は、面積が広く場所によって様々な個性があります。斉藤さんが生まれ育った西根地区は、民家や商店が多いです。しかし移住先に選んだ温泉郷の付近は、八幡平や岩手山にほど近く、八幡平市の中でも特に自然が豊かなエリアとなっています。土地を購入した当時は森の一部であったため、家ができるまでの間、盛岡で半年ほど仮住まいをすることになりました。

「私は『自然に囲まれた場所で自分のサロンを開く』という夢がありました。だから盛岡で暮らしている時は、起業塾に通ったり起業コンサルの方とお話したりもしましたね。厳しい意見も多く『八幡平でそんな癒やしのサロンなんて人来るわけないじゃん』とか『難しいんじゃないですか』とか、いろいろ言われました。地元のお父さんたちなんかには『私たちは緑が溢れてるから、緑に癒やされるっていう気持ちが分からないんですよね』とも笑

けれどもお話を聞いた方はみんな男性で、最終的にはターケティングが違うからと、八幡平に移住することを決めました」

自宅兼サロンが完成し、2017年5月――八幡平市へ移住。

念願の自宅兼リフレクソロジーサロン「うさぎとことり」をオープンします。

車を持たない移住

八幡平市に移住する人の多くは、移動に便利な車を所有しています。しかし斉藤さんは、免許を持たないで移住を決めました。不安はなかったのでしょうか。

「車を持たないことに関しては、ずいぶん心配されましたよ。特に私が住んでいる温泉郷のあたりはお店が少ないので『あんな何もないところで車がないと困るだろう』って。でも、当時お世話になっていたふるさと回帰支援センターで、八幡平市のほうから来てる市の職員さんが『生協あるから大丈夫よ』みたいな感じで助言をしてくれて。私も東京で生協を使っていたから大体勝手がわかっているので、大丈夫だろうと思いました」

細かな生活用品から食料、雪かきスコップまで何でも手に入る生協。今でも週1で利用しているそうです。

いわて生協の配達員・工藤大輝さんと斉藤さん
工藤さんは「大ちゃん」と呼ばれ近隣の方からも親しまれているとのこと。会話も弾んでいました

「自分のこだわりの調味料とか生協で手に入らないものは、バスに乗って盛岡まで買い出しに行けるから問題ないですね」

インタビューをしている最中、ちょうどバスが通りかかりました。徒歩圏内にバス停があるので、買い物に不自由は感じないと言います。

「冬は、バス停が寒いと近くの八幡平ハイツというホテルのロビーでお茶をしながら待たせてもらうこともあります。支配人さんとも顔見知りで『あー、こんにちは』とよく気軽にお話をしたりしますよ」

インタビューをしている間、笑顔を絶やさない斉藤さん。良好な人間関係が自然と築ける力があることが伝わってきます。「主婦をやっていたから、結構そのへん歩いてる人とかにもどんどん声かけちゃったりとか。いろんな人と『おばちゃんだから』みたいな感じで、気軽にずけずけと話せるのは得だったかもしれませんね」

田舎暮らしと都会暮らしの両方を経験された斉藤さんは、田舎暮らしの人間関係について自分自身が心を開いて「私はあなたの敵ではありませんよ」と伝えることも大切と話します。「受け入れてもらうためには、こっちが心を開くってことだよね」

移住のための準備をコツコツ進め、自宅兼サロンで仕事をしながら、日々の生活を慈しむ齊藤さん。「自分のやりたい仕事をするために、今までの生きてきたのはこのための練習だったっていう感じはする」としみじみ話されていました。

過去にとらわれすぎず前向きに行動することが移住の鍵

斉藤さんのハーブティー
「うさぎとことり」のお客様には、施術後に身体に合った最適なオリジナルブレンドのパーソナルブレンドティーを提供しているそうです

移住してから2年。斉藤さんは、自宅サロンを開きながら、八幡平市での暮らしを楽しんでいます。「私、夫が亡くなってから出会った人はいい人ばっかりです」と語るチャーミングな笑顔が印象的です。オープンで穏やかな人柄が伝わってきます。

最後に移住を検討している方へ向けたアドバイスを含めて移住についてお話しいただきました。

「予想外のことが起こったりとかして、それで前の方がよかったっていうふうに後戻りしたくなるときって絶対にあるんです」

けれど田舎を逃げ場にすることは良くないと思うと話されます。

「具体的に起こるトラブルは、その都度その都度解決すればいい話なんです。どんな風に解決するかっていう解決力は、どこに住んでても同じように必要とされます。

自分が何の目的で八幡平市に移住したいかっていうのは、人それぞれだと思うんだけれども、過去のこととかにとらわれないで前向きにやっていかないと、未来はないです。自分自身の何かに挑戦するっていう気持ちをぶれないように持つことが大事だと思います」

text : Yuko Matsumoto

女性のための隠れ家サロン「うさぎとことり」

サロン内はお客様がリラックスできるように工夫が施されています

斉藤さんのサロン「うさぎとことり」は完全プライベートサロンです。八幡平市の温泉郷エリアにある高原中央通り沿いにあります。会話を楽しみながらほっと癒やされるひと時に、心も身体もリフレッシュ。リピートされるファンも多いです。

ハーバルリフレクソロジー・フットケアサロン
うさぎとことり

住所:岩手県八幡平市松尾寄木1-590-111
営業時間:
①午前(10:30~12:00)
②午後(13:00~14:30)
③午後(15:00~16:30)
定休日:月曜